今回はカメラ撮影の「絞り」をテーマとして取り上げます。
スケールフィギュアの撮影に留まらない、表現豊かな写真を撮る上で最重要とも言える要素ですが、ここではスケールフィギュアの撮影向きの提案をします。ま た、被写体の大小によって結果に差が出てくる要素でもあることを先にお断りしておきます。
レンズごとに最高のパフォーマンスを発揮する絞り値が違うことや、絞りすぎると発生する光の回折現象による解像力の低下などもありますが、ここではシンプルに「絞り値と被写界深度の関係について」と、それに伴う条件の変化(他の設定項目への影響等)について紹介します。

絞りを変化させることで、目に見えて変わる部分は「被写界深度」と呼ばれる要素です。これは簡単に言えば「ピント(焦点)が合う奥行きの距離」で、「深い」と言えば距離が長く、画面上の多くにピントが合っている状態を指し、「浅い」と言えば距離が短く、画面上の一部にしかピントが合っていない状態を指します。
絞りと被写界深度の関係としては、絞り値(Fx.x)の数字が大きくなればなるほど被写界深度は深くなります。つまり、ピントの合う位置が広くなり、画面全体がクッキリとします。

以下に、グッドスマイルカンパニーの「セイバー・リリィ 〜全て遠き理想郷(アヴァロン)〜」を撮影したサンプルを並べます。フィギュアの後ろにパッケージ箱も置いてあり、そこに記載されている文字も合わせてご覧下さい。(細かくて見づらい場合にはクリックすれば精細な画像が出ます)

F1.4_saber
F1.4
F2.8_saber
F2.8

F5.6_saber
F5.6

F11_saber
F11

F22_saber
F22

フォーカス(ピント合わせ)の基準は左目です。そこへピントを合わせたまま、絞り値を大きくしています。
これにより、商品サンプルのようにフィギュア全体にピントを合わせる場合、かなり絞り値を大きくする必要があることが解っていただけたと思います。極端な例としてF1.4の画像を掲載していますが、これでは両目すら合っているのと合っていないのが分かれるほどに「ピントが薄く」なっています。また、レンズの絞り開放は絞ったものにくらべ、このようにコントラストや解像感が低下し、全体的にクッキリとした写真が出てこなくなります。意図的にボケ味を作る写真を撮る場合にも、何段階か絞った方がいいでしょう。

また、冒頭でも触れましたが、絞りを絞りすぎる(一般にはF11を超える域)と「回折現象」というレンズ内を光が乱反射することによって全体的な解像感が低下する現象も発生しますので注意です。

回折ボケ無し
F11

回折ボケ有り
F22

上の写真は、撮影した写真をリサイズ掛けることなく等倍で切り出したものです。
絞るほど広くピントが合う = 全体的に解像感が上がる、という考え方はシンプルで覚えやすく、理に適っていると思うのですが、必ずしも全体的に解像感が上がる、とはならないことがこの現象によって確認できます。
しかしながら、これは「等倍で切り出してやっと分かる」程度の低下。つまり、このようにWEBページなどにサイズを縮小して掲載する場合には、まず解像感の低下は感じられません。フォトレタッチソフトなどでシャープネスを掛ければいい、と言っても良いくらいのレベルでもあります。
特別写真のナチュラルな解像感を求めるのでなければ、ピントを合わせる幅を重視して、意図したピントになるまで絞ってもいいでしょう。

また、絞り値を上げることはピントの合う幅を広げるというだけではありません。絞りというのは人間の目で言う瞳孔ですが、それは意志で動かせないため、それよりもむしろ瞼で考えていただくと感覚的に掴みやすいと思います。
眩しいときは、目を細め瞼を閉じていきます。そうすると眩しさが軽減されるからです。つまり、光の入ってくる量が減り、暗くなります。
つまりレンズでも、絞り値を大きくすれば暗くなるので、同じ時間シャッターを開けていると、撮影される写真は暗くなってしまいます。なので、絞り値を倍の大きさにしたら、シャッタースピードは倍の時間にしなくては、同じ明るさの写真を撮ることが出来ないのです。
こちらはそれほど明るい部屋で撮っていないこともあり絶対的に遅めではありますが、F1.4では1/30秒で済んだところ、F11では1秒掛かりました。30倍も光を取り込む時間が長く必要になるのです。1秒というのは、手持ちではほぼ不可能なレベルです。それはどんな手ブレ補正機能があるカメラやレンズでも修正しきれないほどのブレが発生する可能性が高いからです。要するに、F11ともなれば明るい屋外で撮らない限りはほとんどブレブレの見れたものではない写真になってしまいます。
結論として、全体にピントが合ったレビューに使えるようなフィギュア写真を撮るためには、カメラを固定しておく必要があります。三脚を使うなり、テーブルなどの固い物の上に置くなりしなくてはなりません。強い光源を用いる場合(相応のライティングを行う)はその限りではありませんが、それにはかなりの照度(ルクス)を用意する必要があります。
また、ISO感度を上げることによりシャッタースピードを稼ぐ(早くする)ことも出来ますが、引き換えにノイズを増やしてしまうことになります。せっかく綺麗に写真を撮ろうとしていても、ノイズが乗って荒れた写真にはできるだけしたくないでしょう。せっかく一眼レフの描画力があっても、コンパクトデジカメで気軽に撮った写真のような、解像感が乏しくノイジーな写真となったのではもったいないですよね。
一眼レフでフィギュア写真を撮ろうとする場合には、まずはその点を理解していただく必要があります。せっかく一眼レフを使って撮影するのであれば、カメラを固定できる機材を使って、期待に見合った美しい写真を撮りましょう。

ただしこれは「ISO感度」というもうひとつの要素で変化してきます。この写真で使用したISO感度は200ですが、これを倍の400にすれば同じ絞り値でも半分の時間で同じ明るさの写真が撮れます。1600にすれば1/8の時間にできます。
ですがこのISO感度というのも当然メリットばかりではなく、JPEG画像の圧縮率に似ていて、感度を上げるほど画質は劣化します。ノイズを増加させ、本来の発色が損なわれていくからです。なので、綺麗に撮りたい人にはISO感度の引き上げは避けるべき方法でしょう。もちろんカメラの性能向上により改善されていますし、許容範囲は人それぞれの感覚になるので、一度撮り比べてみるのはオススメします。

また、絞り値を上げることでピントが合う幅が広くなる理由については、あまり視力が良くない人には感覚的に解るかと思うのですが、近視の人は遠くの物を見るとき、遠視(老眼)の人は近くの物を見るときに「目を細める」ことで、視力が上がったわけでもないのに比較的見えるようになる原理と同じです。

さて、ここまでは一眼レフを使用した場合について説明しましたが、実はコンパクトデジカメのほうが撮影は楽だったりします。なぜならピントの合う幅が絶対的に広いからです。携帯電話のカメラだとそれがさらに顕著になったりします。それは画像を捉えるセンサーの大きさとレンズとの距離が要因なのですが……それを説明するとややこしくなるので、とりあえずここではそういうものだと思ってください。もちろん、画質や解像力(画素の数量を示す解像度ではない)は大きなセンサーを持つ一眼レフに劣りますので、綺麗な写真が撮れるということにはなりません。あくまでピントが合いやすくなるだけです。この綺麗さの許容範囲も個人差になるので一概には言えませんが……


また、今回は写真として取り上げませんが、焦点距離が短いレンズ(広角側)ほど被写界深度は深くなり、焦点距離が長いレンズ(望遠側)ほど浅くなるのも特性としてあります。
今回は55mmの焦点距離であるレンズを使用しており、やや望遠側のためにF11に絞ってもまだ奧までピントが合っていませんが、広角レンズにすればさらにピントの合う幅は広がりますし、今回のように一番手前ではなく被写体の中心あたりにピントを合わせ、前後の幅を有効活用すればさらにピントの合う幅を実質的に広げることができます。
メーカーのサイトで掲載されているサンプル画像のように全体にくまなくピントを合わせたい場合には、広角レンズでパンフォーカスするのが良いでしょう。
また、逆に一部分(瞳など)を除いて大きくボカし、印象的な写真にしたい場合は、絞りを開放側(F値を小さく)にするのはもちろんのこと、望遠マクロレンズを使用したり、コンパクトデジカメなどではマクロモードにして一部分をクローズアップしたフレーミングにすると効果が現れやすくなります。


今回の条件は、被写体がスケールフィギュア(1/8、1/4サイズなどと呼ばれる、比較的大きなフィギュア)であることを前提としますので、トレーディングフィギュアなどの小さなものや、逆にドールなどの大きなものなどでは、同じようにちょうど全身が入るような構図とした場合、その結果はいくらか変わってきますので、その点も押さえておいてください。
被写体のサイズが大きければ絞りが大きめでも全体にピントが合いやすくなり、被写体のサイズが小さくなればなるほど同じ絞り値でもピントの合う幅が狭くなっていきます。
さらに、トレーディングフィギュアほどの大きさとなってくると、マクロ撮影ができるレンズでなければピントが合わせられなくなってきます。
コンパクトデジカメなどでは、ほとんど変化は出てこないでしょうし、マクロ撮影モードが搭載されていて対応できることが多いので特に意識する必要はありませんが、レンズやセンサーが大きな一眼レフになってくると、画質や表現力の高さと引き換えに、そういった融通は利かなくなってくるので気をつけてください。
意外かもしれませんが、コンパクトデジカメのほうが様々なフィギュアをそれほど苦労することなくキレイに撮れるので、画質や表現力をそれほど求めるのでなければコンパクトデジカメを利用するのがいいかもしれません。必ずしも一眼レフが良い、ということはないので、フィギュアの撮影に一眼レフを導入しようと考えている方は、このような傾向があることを一考しておいた方が良いでしょう。
けれども、出来る画(写真)の表現は格段にレベルアップしますので、個人的には一眼レフの導入をオススメします。とはいえ、こだわりだしたら際限のないレンズ購入欲に取り憑かれていつの間にか10万、20万の出費となりますので、ご利用は計画的に。


そんなところで今回の特集は終了といたします。これからフィギュアの写真を撮ろうとしている方や、設定値の関係がイマイチ解らない方は参考にして いただければ幸いです。
風景写真で説明されたサイトを見たりしても、フィギュアなどの造形物とは捉え方が変わってくるので解りにくいですからね。 実際にこうして現物を比べるのが一番だと思いました。

以上、絞りの特集でした。