新しい年号となった最初の冬を迎えようとしている晩秋の頃。夜の冷え込みが厳しくなりつつあり、10月からの消費税増税により懐も寒くなりつつある状況で、暖を取りたくなる気持ちが高まりつつあります。
高いヌクモリティを得るためにはやはり高性能の暖房器具が欠かせません。
今回は消費電力が65Wとそこそこでありながら、高い満足感が得られる機器をご紹介します。

Cayin HA-1A Mk2 01

はい、記事名でお分かりになるように今回紹介するのは実際には暖房器具ではありません。
ヘッドホン用のA級アンプ「HA-1A Mk2」です。
A級とは、消費電力が大きい代わりに音の雑味成分を発熱として捨て、上澄み部分だけを使用する贅沢な方式であることを示したもので、ピュアオーディオがピュアとなるために欠かせない性質です。
そしてこの製品は、アンプの心臓である増幅器としてトランジスタではなく真空管が使われている「真空管アンプ」であることが特徴です。
トランジスタよりも古くから製造され、消費電力や大きさに対しての増幅効率が悪いため需要が限られ製造メーカーが途絶えかかった状況ながら、ピュアオーディオの世界ではトランジスタに替えられない音色を得られるため根強い需要が今なお続いている特殊な部品です。カメラでもイメージセンサではなくフィルムにこだわる人たちがいるのと同じ傾向ですね。
特性だけで言えばトランジスタが上回るはずですが、数値だけでは得られない【味わい】に魅力を感じるのが奥深さのある趣味の妙味でしょう。

※オーディオ機器のレビューですが、肝心の音の評価が書かれているまでの前置きが長いので、それ以外はいらないよという方はこちらを押してください。 → サイト内ジャンプ

Cayin HA-1A Mk2 02

本体の全景をご覧ください。
前述の通り真空管は大きいのが特徴であり欠点でもあるため、それを採用したアンプも大きくなります。この製品では真空管を5本も内蔵しているため、ヘッドホンアンプのサイズ感を想定していると、遥かに大きい事に驚くのではないでしょうか。

サイズ比較として、このサイトを見ている人たちには最もサイズ感をイメージしやすいだろう「ねんどろいど」を置いてみました。

Cayin HA-1A Mk2 11

「やっぱり真空管アンプ、10体載っても大丈夫!」と声を発したくなるようなサイズです。
公称重量は9.5kg。10kg近いのです。アンプだけで米袋並です。

Cayin HA-1A Mk2 03

前面には真空管が覗ける窓があります。
真空管は動作中は電球のように橙色の光を発するため、視覚的にも楽しめるのが魅力でもあるので、見れるようになっているのは重要ですね。他の真空管アンプは真空管がほぼ剥き出しの製品も多いですが、発熱が大きく触るのは危険ですし、何かを当てて割ってしまうのが怖いので、ハウジング内に収まっているのは安心感があります。直接触れないとは言え、本体上面に熱が伝わり高温になりますが。
パネルとして縦にヘアラインの入ったアルミが使われているようで、ローレット加工がなされたツマミと共に高級オーディオ機器らしい質感を醸し出しています。
ツマミは3つで、中央にボリューム、左に入力切替(2系統)、右にインピーダンス設定となっています。
インピーダンス設定は5種類。8〜32Ω、33~64Ω、65~150Ω、151~300Ω、600Ωとなっています。
このクラスでは当然とも思いますが、600Ωにも対応しているのがいいですね。
ヘッドホン出力端子は左右2つありますが、同時使用は推奨されていませんでした。
なお、残念に思われるのはバランス出力が無い点。近年ではバランス接続へのリケーブルが純正で用意されるヘッドホンも多いため、バランス接続への需要は高いでしょうが、この製品はバランス接続への対応は見送ったようです。発売は2018年ですからバランス接続への需要が多く見込まれることは理解した上でこの仕様にしたと思われます。開発には10年以上の歳月を掛けたとのことですので、後付けでバランス化した回路を追加したくないという製作者の信念があるのかもしれません。
これらのヘッドホン出力端子に挟まれた中央には電源ボタンスイッチが配されています。

Cayin HA-1A Mk2 10

ツマミは止めネジで固定されているタイプで、私の購入した個体は少し緩んでおり、回転しすぎてしまう状態でしたので締め直しました。1.5mm角のかなり小さな六角レンチが必要なので緩んだらちょっと面倒ですね。

Cayin HA-1A Mk2 04

両サイドは木目調のパネルとなっています。実際の木ではありません。触った感じでは樹脂です。高温に耐えられる材質の物を使用しているのでしょう。発熱を逃すための通気スリットが片面で20箇所開いています。
なぜだか跳び箱に見えますね。

Cayin HA-1A Mk2 06

天面はシボの入った黒色の塗装がされた金属で、真空管の真上に位置する面に多くの通気スリットが入っています。
後ろ半分は基板などの回路があると思われますが、その位置にはメーカーロゴと真空管の配置と型名が記されています。5基の真空管が型名入りで表示しているあたり、こんな上質な真空管を使ってるよというアピールかもしれません。

Cayin HA-1A Mk2 07

底面はインシュレータとしての機能は不明ですが、前方に2個、後方に1個の円形足が付けられています。重量を考えると、後方にこのサイズの足が1個しかないのは不安定にならないか心配ですね。
鳴り方の変化はさておき、補強したい気がします。

Cayin HA-1A Mk2 05

背面は端子類。
音の入出力はRCAのみで、一点集中が美学でもあるピュアオーディオらしい仕様です。このサイズで光端子すらないのはどうなのよと思う人もいるでしょうが、RCA用と光端子用の2回路を合流させるなんてS/N比が劣化するようなことはするな、というのがこのクラスの機材を買い求める層の人たちの本音かと思います。
前述の通り入力は2系統で、CDとAUXの刻印が割り振られていますが、特性に差はないと思われます。
RCAには半透明のカバーが被されており、この写真はカバーが付いている状態です。
出力はプリアウトの1系統。ヘッドホンアンプですのでこちらよりは前面のヘッドホン端子が主な出力です。
電源ケーブルの接続端子の下にはヒューズ管の取り付け口が設けられており、設置済の物以外に付属として2個ありました。交換の際に手の脂が付かないようにするためか、手袋まで付属していました。こんな所に気遣いが厚いです。

Cayin HA-1A Mk2 08

電源を入れると天面のスリットからも真空管の明かりが見えます。

Cayin HA-1A Mk2 09

そして窓からはこのように幻想的な真空管の光景が楽しめます。
インテリアとしても価値のある眺めです。
もちろん(?)発熱も大きいので、冬季の寒い部屋もちょっとは暖かくなるでしょう。暖色なので視覚からもほっこりできて最適です。


Cayin HA-1A Mk2 12

付属の説明書は、メーカー純正と思われる英語表記のものと、日本の代理店が作成したと思われる日本語表記のものの2つが入っていました。

ちなみにこのヘッドホンアンプのメーカー名である「Cayin(カイン)」とは、中国・珠海市の「Zhuhai Spark Electronic Equipment」のブランドです。珠海市はマカオを囲むように隣接し、香港とは湾を挟んで隣接する中国南部の都市で、中国最大の電子都市として近年発展が目覚ましい深セン市にも近い、中国国内で「高級志向」を求める人が多いであろう地域です。中国製品と言えば“安かろう悪かろう”のイメージが先行してしまいますが、この製品に於いてはその先入観は取り払ったほうがいいでしょう。
でも、この製品のポテンシャルを知ると、実売で10万円を切るのは「安い」と思えます。
なお、当機種は「Mk2」とあるように先代の「HA-1A」があり、そちらは2003年発売とのこと。先代も評価は上々だったものの、開発者のこだわりで更に高次元の音を目指し、部品の変更や回路の調整が重ねられたのがこのMk2だそうです。14年の歳月を掛けて磨き上げたそうですね。そして重量もアップしたと。
真空管アンプ全般としては四半世紀の製造歴があるようで、熟練の培われた結果の製品なのでしょう。

この製品において特筆すべきはヘッドホン出力のパワフルさ。
真空管が5基も付いているので察するところではありますが、とにかくパワーがすごいです。
一般にヘッドホンアンプの出力は500mWもあればかなりパワフルな部類ですが、ほとんどのインピーダンスで1000mWを超え、600Ωに至っては2200MWを出力します。もちろん1ch当たりですので、合計すると4400mWが出力されることになります。とんでもないモンスターです。それはこのサイズになるのも頷けますね。

それだけのパワーがあるからこそ、感度の低いヘッドホンもしっかり鳴らせる期待が持てます。
私がこのアンプを購入する大きな目的は、所持しているbeyerdynamic製の「T1」(2ndではないです)をトルクフルに鳴らせるアンプが欲しかったからなのです。次点は、トランジスタのアンプでは得られない音色を欲したことです。
接続するDACは以前にレビューした「JADE casa DSD」です。
そしてこのアンプの凄さを体感しました。
ボリュームを最大10とすると、2のあたりで通常に楽しめるだけの音量が得られたのです。あのT1が最大レベルのわずか5分の1でそれだけ鳴ってしまうのです。とんでもないですよこれは。
そしてDSDフォーマットのジャズを聴いてみました。ウッドベースの弦を弾く音が艶かしさを纏いながら鼓膜に到達し、心地良い波がカラダの芯から揺さぶられてドーパミンがドバドバ出て恍惚となります。弦楽器が生々しくネットリと響く表現力。真空管サウンドおそるべしです。
ウッドベースの低音がグイグイと出ている間にも、パーカッションがきらびやかに鳴るのは分解に優れたT1の凄さでもありますが、アンプが弱いと出音が潰れてしまいがちなところ、その傾向が全く感じられません。常にどの帯域も芯が残った音が出てきます。音場などの印象はヘッドホンにも大きく左右されるので評価は難しいですが、現地でセッションを聴いている状態に近づくのは間違いないでしょう。
クラシックのように出てくる音の種類が多い場合は、広い周波数帯域が共存するため特に音が細りやすいですが、このアンプで鳴ってくる音にはそれが無いので、多種多様な楽器の魅力が全て損なわれることなく耳に届けられる印象です。
PCM系フォーマットや電子音の曲も、矩形波っぽいエッジや硬質さが薄れて、楽器によって奏でられている印象が強まります。
トルクフル(ドライブ能力が高い)なので低音から高音まで万遍なく持ち上がり、T1の売りである帯域の分解能が存分に活き、ボーカルと楽器の個性が損なわれることなく伝わるように感じられます。
とろけますよ、これは。
サウンドモンスターと呼称したくなる構成です。
私が使用しているDACがピュアらしい原音忠実系なので、録音状態に大きく左右されるのがご愛嬌。ハイレゾ音源以外は不相応な音と思えてしまい、聴きたくなくなってしまうのが悩ましさすらあります。
S/N比はちょうど100dbとされており、トランジスタの高級機に比べると劣る数値ですが、真空管の特性から考えると100に到達しているのは極めて優秀でしょう。
無音時に感じられるホワイトノイズも、それほど気にならないレベル。電源が安定しており、ゆらぎもなく、窓から見える真空管は常に一定の光を放ちます。インテリアとして見る場合は少しくらい揺らめいてくれるくらいのほうがいいんですけどね。高い実用性能が求められる高級帯のアンプですからそこは求められません。電源を入れた直後には気になる程度のハムノイズが感じられますが、しばらくしてホワイトノイズが乗ってくる頃にはほぼ気にならなくなります。総じて音の邪魔にはならない小さなものなので、このノイズにより音が劣化したと感じるとしたら人間離れした聴覚の持ち主かもしれません。
でも、電源を入り切りにした直後に聞こえる「チャリチャリ」という音がいかにも熱を伴う発光管らしくて、ああこのアンプって真空管で鳴ってるんだなと実感できます。

欠点とすれば、パワーが強すぎるため感度の良いヘッドホンだと鳴りすぎてしまう可能性があることでしょうか。ボリュームつまみの操作が繊細さを要求されそうです。既存のアンプでは鳴りきっていないと感じるヘッドホンを持っているか、その傾向にあるヘッドホンに興味のある人がマッチングできるアンプと言えそうです。
あとは、真空管につきものの寿命の短さでしょうか。これはこの製品に限られるものではなく全ての真空管アンプに共通の問題ですが、見た目も似ている電球と同様に、使用時間が長くなると劣化します。空気が混入して真空状態が保てなくなることもあるようです。回路に実装された部品は問題なくても、この製品も交換することを想定して説明書に使用中の型名以外にも互換品の型名が書かれている親切さがありがたいです。ただ、真空管は絶対的な需要が少ないため入手経路が相当に限られてしまうため、今後も確実に入手し続けられるかの不安はあります。この製品は3種類、計5本も真空管が必要になるため、メンテナンスには費用のかさむ製品となるかもしれません。
ただし、個人が一日のうち2時間程度のリスニングをする程度の使用方法であれば10年以上使える場合もあるようですし、この製品に関しては10万円程度と(このクラスにしては)安価な製品ですから、割り切って使うのが正解かもしれません。それだけの見返りがある音が楽しめるはずですから。

職人気質で融通が利かないものの、絶対的なパワーで他を圧倒するようなアンプ。多用途向けの製品とは正反対の仕様だけに需要がマッチする人はかなり限られそうですが、私のようにストライクゾーンに入れば確実にハマるだけのポテンシャルを持った、実質剛健な逸品と言えるでしょう。
合うかどうか試される製品ですから、購入を検討される場合はぜひ試聴可能なお店に赴いてください。e☆イヤホンいいですよe☆イヤホン。(ダイマ)