2014年10月中旬に開催された(この記事を書いている日が最終日)の「オーディオ・ホームシアター展(音展) 2014」に参加して、ひとつ悩ましく感じる点がありました。

バランス駆動ヘッドホン端子の規格乱立が国内メーカーにも及んでいる、と。

規格乱立はAV機器の歴史を紐解くと、幾らでも例が挙げられます。目立ったところでは映像記録媒体の『VHS 対 ベータマックス』とか『Blu-ray 対 HD DVD』ですね。各陣営に属するメーカーの思惑が反映されているため、それぞれ引くに引けない様相を呈し、購買する側のユーザーにとっては混乱を招くばかりの迷惑な【大人の事情】と捉えられやすいものです。
しかし、お互いの陣営が相手より一歩でも抜き出ようと技術を磨き、コストダウンに励むため、結果としてユーザーにとって【より良い物が低価格に】入手できる可能性が高くなるのも事実です。独禁法が存在する理由のひとつでもあるように、寡占状態よりも競合が並び立つ状況の方が結果として適正な関係性を産むことになります。

しかし、ユーザーの利便性が損なわれる可能性は捨て切れません。

今回取り上げる「ヘッドホンのバランス駆動」については、導入を検討するユーザーの絶対数がそれほど多くはなさそうなので大きな問題として話題にはならないかもしれませんが、いよいよ日本のメーカー製品かつ比較的手が届きやすい普及帯にもその方式が備わりつつあるので、ここで微力ながら問題提起するとともに、乱立している状況を整理してみようと思います。

「そもそもバランス駆動のヘッドホンって何なんです?」って方も多いでしょうから、まずは技術全般の説明を行っていきます。
【バランス接続】については以前の記事に記載しているので、そちらも合わせてご覧頂ければと思います。

続いて、参考リンクを貼っておきます。ここで1から解説するよりもよっぽど判りやすい記事がプロの手により作られているのでスマートだと思いまして。この技術について不明な方はリンク先をご参照ください。

ヘッドホンをバランス化することにより向上すると言われているのは、たいてい次のような面です。
  1. 音の粒立ちが良くなり、明瞭でハキハキしたサウンドになる。
  2. 音場感が増し、どの方向から音がなっているかが明確になる。
  3. 定位がきちんと取れ、臨場感が増す。
これらは、音の信号がGND側でクロストーク(混濁)しなくなった事により、ひとつひとつの音(波形)の分離が良くなった結果のようです。
XLRケーブルによるバランス接続は主にノイズの低減がメリットとなっていましたので、同じバランス接続と言っても狙っている効果は異なるようですね。
対して、アンバランス駆動に比べるとダイナミックさが減って大人しい傾向の音になるとの意見も有ります。これは察するに、本来の音の信号に加えてGNDから漏れてきた反対側のチャンネルの音が混じるために音が増幅されたように聴こえ、さらに左右のわずかなズレが音をうねらせているような効果を生んでいるのでは、と思われます。なので、アンバランス駆動の方が曲によっては合ってると感じる人もいるのでしょう。このあたりがオーディオの奥深さですよね。



さて、それでは実際にバランス接続のヘッドホンをつなぐにはどのようにするのでしょうか。
どうやら最初からバランス接続するためのプラグを有しているヘッドホンまたはイヤホンは数少ないようで、基本的にはケーブルの交換や改造を行って「バランス化」しているようです。となると、これだけで少々敷居が高く感じてしまいますね。バランス駆動を行ってみたいと思えるほどの機種となれば、価格もそれなりになるでしょうから、下手をすると壊してしまいかねない改造をするのは踏み切りにくいでしょう。ケーブルが交換できるモデルも高価ですし、交換するケーブルも高価な場合が多いです。
末端のプラグを交換しやすい構造にして、簡単にアンバランス(普通のフォンプラグ)とバランスを差し替え出来るようになっているヘッドホンが一般的になってこないと、ごく一部のマニアにのみ許された聖域みたいな状態のままになってしまうかもしれません。
まあ、この分野ってもともとそういう改造を是とするコアな人たちが主な購買層だから、普及させようと働き掛けるのは無駄な事と判断している人も多いのかもしれませんが。

しかし、国内のオーディオ機器メーカーが「ハイレゾ」の機運が高まってきたと見るや、こぞってこの領域に乗り込んで来ているような風潮が立ち上がっています。表に見えやすいスペックではライバル機種との差を出しにくいため、トピックとして打ち出す話題性の持てる機能として「バランス駆動のヘッドホン端子」を備えて来ているように思えます。

今が旬の分野で、旬を逃さぬうちにライバルの機種から一歩抜きん出るために――となれば、なるほど業界で話し合って規格を統一している場合じゃないでしょう。規格乱立の条件が揃ってしまっているようです。



では、筆者が知る限りでの「バランス駆動ヘッドホン端子」の種類と、搭載している機種を挙げてみます。

  1. XLR3ピン 左右独立タイプ

    左右独立XLR(3極)
    一般的なXLR3ピンの端子を、左耳用と右耳用で独立して利用するタイプです。バランス接続かつ左右を独立させるというコンセプトから、もっとも判りやすい実装の方法です。DACからプリメインアンプ間など、機種同士をつなぐ際とも同じ構成ですね。
    デメリットとしては、ただでさえ大きなXLR端子を2つもヘッドフォンからぶら下げるため、大きくて重くて取り回しが面倒になる点でしょう。収納や移動の際にもネックとなります。
    とは言え、本来のバランス接続の形を取っているので、音質面では最適と思われます。
    高級帯のヘッドホンアンプなどの専用コーポネントだと、このタイプになるでしょう。

    搭載機種一例: LUXMAN 「P-700u」 ヘッドフォンアンプ


  2. XLR4ピン 左右統一タイプ

    左右統一XLR(4極)
    同じXLR端子を使いますが、ヘッドホンではCOLD側の接続も行えればGNDを利用する必要が無いため排除して、2ピンずつをHOTの左右、COLDの左右にとそれぞれに割り当て、4ピン構成の1端子に統合したタイプです。
    フォンプラグに比べれば大きいですが、XLR2個に比べればコンパクトになりますし、左右端子の差し間違えもなくシンプルで便利になります。
    ポータブルアンプなどの小型が前提となる機種には、ややかさばるサイズのため、宅内で利用する事を前提としたサイズのヘッドホンアンプ付きDACへの採用が主となるでしょう。
    今年7月に10万円を切る価格でバランス接続ヘッドホンが利用できると話題になっている、パイオニア製のUSB-DAC「U-05」では、こちらのXLR4ピンと上記のXLR3ピン×2の両方を備えた豪華仕様となっています。この機種の登場により、今後は国内のメーカーで普及が進みそうな予感が現実味を帯びてきました。

    搭載機種一例: Pioneer 「U-05」 USB DAC


  3. ミニプラグ3極 左右独立タイプ

    ミニプラグ3極
    こちらはおなじみのイヤホン端子ことステレオミニプラグです。
    普通は1本で使うところを、左右独立して2本にすることで、XLR端子と同じ3ピン構成と同じ数の極性を使います。本来はL信号、R信号、GNDが割り当てられますが、L側にはLのHOT、LのCOLD、LのGNDと、XLR同様に利用します。
    COLDを用いず、モノラルで利用する2極プラグを使う場合もあるようですね。
    ミニプラグを利用する事からお察し頂けると思いますが、ポータブルヘッドホンアンプ(通称:ポタアン)での採用が多いようです。
    ソニーが今回の音展の期間中に発売した「PHA-3」で採用されているのが話題となっていますね。同時に対応する方式のバランス駆動が可能なヘッドホンも発売してくるあたり、この分野で総合的に強いソニーらしいと言えるでしょう。

    搭載機種一例: Sony 「PHA-3」 ポータブルヘッドホンアンプ

  4. ミニプラグ4極 左右統一タイプ

    ミニプラグ4極
    XLRの際と同じアプローチなので説明するまでもないでしょう。
    4極にすることで、1つのプラグで事足りるようにした形です。
    4極ミニプラグというと、携帯電話やスマホのイヤホンジャックとして馴染みがあるでしょう。このタイプでは3極のミニプラグに追加されている1極を再生や停止などのコントロール用に使っていますが、バランス接続の場合には4ピンXLRと同じく、2極ずつをHOTの左右、COLDの左右にとそれぞれに割り当ててています。
    こちらを採用した国内メーカーの機種は思い当たりませんが、先行している海外メーカーのものは数種類あります。AV Watchで特集されていた「HiFi-M8」の記事を一例として紹介します。

    搭載機種一例: ポタアン「HiFi-M8」で“外でもバランス駆動”

  5. IRIS端子(角型)

    角型4極(アイリス)

    上で紹介した記事にも搭載機種が出ていましたが、こちらはやや変わり種です。オーディオ用の端子としては馴染みがないでしょう。
    本来は監視カメラ(CCTV)のオートアイリスレンズのアイリス(絞り)を自動制御する信号を伝送する用の端子です。その形からS/PDIFの光端子で採用されているTOSLINKと同様に「角型」と表示されるのが一般的なようですが、規格ではIRISとして形状が規定されています。
    突起部を除き対象形状ですので、慣れないうちは挿し込む方向を迷いやすいでしょう。挿し込むプラグ側はL字形が基本のため、ケーブルの出ている角度を覚えればすぐに難儀しなくなるでしょうが。
    形状は違えど、上記の4ピン構成のXLRと同様と考えていいでしょう。XLRに比べて小型のため、XLRを搭載するには大きさの制約があるポタアンに採用するのに便利と判断し、採用するメーカーが増えているようです。
    この端子、やや意外なことに国内メーカーのパイオニアが、初のポタアンとして今回の音展で発表し、実機を初お披露目したしたモデル「XPA-700」に採用してきました。もしかするとこれを契機に、他の国内メーカーも追従してくるかもしれません。据え置きモデルのU-05でもそうだったように、単にパイオニアが4ピンへのこだわりを持っているだけなのかもしれませんが。(設計上の都合がいいのかも?)

    搭載機種一例: Pioneer 「XPA-700」 ポータブルヘッドホンアンプ

以上の5種類が、現状では乱立しています。
最低でも据え置きサイズとポータブルサイズで両立が難しい、XLR系統とミニプラグ系統またはIRIS端子の2種類に分かれるのは致し方無いでしょうが、このままではサードパーティ製のヘッドフォンもしくはイヤホンが、どの端子にすれば最も売れる(=勝ち残れる)のか、企画・設計の担当者が頭を悩ませてしまいますし、個人的に好みの音を出すメーカーのバランス駆動用ヘッドフォンを買いたいが端子が異なるために購入を見送るか、次点の端子が一致するヘッドフォンに妥協するのかで頭を悩ませてしまうかもしれません。
これ以上の乱立を発生させる前に、ユーザー視点に立って、業界全体を適正な競争に導き、活性化させ、結果的に盛り上がるベクトルに向けるために、業界団体で国内統一化の流れを作ってほしいものです。

【追記】
当初の記事では、4ピンの方式はCOLD信号を用いず、GNDを分離する極であると記載しておりましたが、コメントからのご指摘と追加調査により、実際にはCOLD信号を用いてGNDは使用しない方式が基本のようです。訂正させていただきました。コメントでのご指摘をいただきありがとうございました。




「記事のタイトルから横道逸れてる」感の否めない内容となりましたが、個人的に一番言いたかったのは「乱立はなるべくやめてね」って事だったので、副次的にイヤホンの選び方にもつながるから良しとしてね、ってことにします。
タイトルを見て、個別機種の音質比較とかを期待していた方はごめんなさい。
それでも、機種またはヘッドホンを選ぶ上での参考になったらこの記事も価値はあったかな、となりますので、そうなるのをささやかながら期待したいと思います。